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東京地方裁判所 昭和41年(モ)10062号 判決 1966年9月06日

申立人 深沢義治

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 加藤勝三

被申立人 黒柳長治郎

右訴訟代理人弁護士 榊原卓郎

主文

本件申立はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は申立人らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、申立人ら

東京地方裁判所が、同庁昭和四〇年(ヨ)第一〇一六六号不動産仮処分事件について、昭和四〇年一二月二二日なした仮処分決定はこれを取消す。

二、被申立人

主文第一項同旨

第二申立人らの主張

一、被申立人の申請により、主文掲記の仮処分決定がなされているが、申立人は当庁に起訴命令を申請したところ、当庁は右申請に基づき昭和四一年四月一八日被申立人に対し裁判送達の日から一四日以内に本案訴訟を提起すべき旨の決定をなし、右決定は同年四月二一日被申立人に送達された。

二、しかるに被申立人は右期間を徒過し、現在に至るまで本案訴訟を提起しない。

三、よって申立の趣旨どおりの裁判を求める。

第三被申立人の主張

一、起訴命令が送達されて後現在に至るまで被申請人が本案訴訟を提起していないことは認める。

二、本件の本案は、土地所有権に基づく土地返還もしくは妨害排除請求権であるところ、被申立人は、申立人らに対し既に債務名義を得ているので、改めて本案訴訟を提起する必要はない。

(一)  すなわち本件仮処分の目的となっている土地、建物について、被申立人と当時の建物の所有者申請外岸もとおよび建物の占有者申請外谷野正太郎他四名との間に、前者については建物収去土地明渡の確定判決(当庁昭和三五年(ワ)第一二六〇号、同二一三七号)、後者についてはいずれも建物退去土地明渡し(一部について付属建物の収去)の裁判上の和解(東京高等裁判所昭和三六年(ネ)第四六一号)が存している。

(二)  ところで申立人深沢義治は前記建物につき、その所有権を取得し、その余の申立人らはいずれも右建物を占有しているものである。しかしそれらはいずれも前記債務名義成立後に承継取得したものであり、被申立人は申立人らに対しいずれも前記確定判決もしくは和解調書につき承継執行文を得ているのである。(なお建物収去命令について申立人深沢義治から即時抗告がなされたので現在直ちに本執行に移れない。)

三、よって申立人らの本件申立は却下されるべきである。

第四疎明≪省略≫

理由

一、被申立人の申請により主文掲起の仮処分決定がなされ、申立人らが当庁に起訴命令を申請したところ、同庁が右申請により昭和四一年四月一八日被申立人に対し裁判送達の日から一四日以内に本案訴訟を提起すべき旨の決定をなし、右決定が同年四月二一日被申立人に送達されたことは記録上明白な事実である。

二、ところで被申立人は、本件仮処分の被保全請求権につき既に債務名義を有し改めて本案訴訟を提起する必要はない旨主張するので以下その点につき判断する。

(一)  本件の本案の訴訟物が土地所有権に基づく土地返還もしくは妨害排除請求権であることは仮処分申請書に照らし明らかであり、≪証拠省略≫によると被申立人は右請求権につき既に債務名義を有すること、すなわち申立人深沢義治に対しては確定判決、その余の申立人には裁判上の和解調書にそれぞれ承継執行文が付与されていることが疎明される。以上の認定に反する疎明はない。

(二)  ところで既に債務名義が存していても本件のごとく直ちに強制執行に着手し得ない事情の存する場合には、その債務名義に基づく執行を保全するためまたは執行に着手するまでの間にこうむるいちぢるしい損害を避けるため、仮処分命令を求めることができるが、右債務名義が確定判決や裁判上の和解である場合には、改めて本案訴訟を提起することを要しないと解するのが相当である。けだしこのように被保全権利の存在が確定している以上再度の本案訴訟の提起によって保護される申立人らの利益はなんら存しないし、仮りに訴えを提起してもそれは再度の訴えの要件を原則として満足しないと考えられるからである。

三、そうすると申立人らの本件申立はその理由がないのでこれを却下し、(かかる場合起訴命令を取消すのではなく、本件申立を却下すればたりるものと解する。)訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木経夫)

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